事業の目的は「顧客の創造」 2010.07.02
1.事業の目的は「利益」ではない
事業の目的とは何か。このような問いに、多くの人は「利益」と答えられるでしょう。しかしドラッカーは、利益には次の4つの機能があるが、目的ではないと述べています。詳しくは、過去のブログ「コスト削減⑨コスト削減の最終目的 20100126」をご覧ください。
①成果の判定基準・・・・・・・過去の業績に対する評価
②将来のリスクに対する保険・・「将来の不安」のために使う
③労働環境改善のための原資・・「将来の発展」のために使う
④社会サービスと満足の原資・・社会の充実のために使われる
2.「利益」を目的とする場合の弊害
企業にとって第一の責任は、存続することです。「利益」はそのために必要なもの。だから「事業の目的は利益」と考えがちですが、その弊害について、ドラッカーは次の点を指摘しています。
①従業員の頭の中で「自分の利益」と「企業の利益」が対立する
②目先の利益を求めるあまり、将来の利益を犠牲にする
これらを理由に、利益計画は「最大利益」ではなく、「必要利益」に基づいて作成すべきとも述べています
3.なぜ「顧客の創造」が目的なのか
企業が存続するためには「利益」。その利益を生むのは一体誰なのか。もうおわかりですね。顧客がいない限り「利益」は生まれません。いくら素晴らしい商品でも、人ひとりいない山の中では売れません。だから、事業の目的は「顧客の創造」だとドラッカーは述べています。
「顧客の創造」と言うと、何だか難しそうですが、「顧客のニーズに応える」または「顧客のニーズを新たに作る」と考えることにしましょう。前者は現在の市場、後者は将来の市場をターゲットにしています。ここがポイントになりますので、ぜひ憶えておいてください。
4.「顧客の創造」のために必要な2つの方法
顧客を創造するためにはどうすればよいのか。ドラッカーは「マーケティング」と「イノベーション」の2つの方法を挙げています。「マーケティング」は現在の市場、「イノベーション」は将来の市場をターゲットにしています。これら2つが先ほどのポイントのつづきになります。
ドラッカーの定義を確認してみると、マーケティングとは、販売を不要にすること。顧客が求める製品やサービスをあらかじめ用意し、おのずから売れるようにすることだと述べています。ここで言う顧客とは、現在、市場にいる顧客のことを指しています。
5.従来型のマーケティング戦略が目指すもの
世界的な権威であるマイケル・E・ポーターは、「コストリーダー戦略または差別化戦略」に「集中戦略」を加えろと述べています。「コストリーダー戦略」は、徹底した低コストにより、低価格でも利益を上げるトヨタやマクドナルドなど、大型設備投資が可能な大企業向けです。
一方、中小企業は特定の部分にコストをかけて、他社にない特異性をもたせる「差別化戦略」が有効と言われています。さらにターゲットを絞る「集中戦略」を加えて、狭い市場でシェア1位を目指せ、高価格で利益を稼げと、マーケティング型の戦略理論では述べられてきました。
6.マーケティングだけでは行き詰まる
しかし、今、日本の産業の多くは、成熟期から衰退期に向かっています。競争が激化する一方、市場の収縮も進んでいます。差別化戦略と集中戦略を採用すると、ターゲットとなる市場はさらに縮まりますので、いくらその中でシェア1位を取っても、満足な利益が得られない可能性があります。
また、成熟期以降の市場では、消費者の嗜好が猛スピードで変化します。もしターゲットが当たったとしても、好成績が長くつづくとは思えません。従って、不況時に、既存の市場の中から高額な商売のみに絞る戦略は、リスクが高いと思われます。しかも成功する確率は低いでしょう。
7.ゲーム機を例にとると
自社の属する業界が成熟期へ進むと、同業他社と争っても、十分な利益が得られません。消耗戦の末に、力のない企業から倒産し始めます。マーケティング戦略は、現在の市場をターゲットにしていますが、市場そのものが衰退すると、あまり参考にならないのではないでしょうか。
ゲーム機を例にとると、従来の顧客層の中から、特に上級者のニーズに焦点をあてた「ソニーのPS3」。リアルさやゲームの難易度などを充実させましたが、あえなく敗退しました。これは従来までの競争を前提としたマーケティング戦略だけでは、行き詰まることを意味しています。
8.今、求められるのはイノベーション
そこで必要なのが、新たな市場を創り出すイノベーション戦略です。ドラッカーの定義は難しいので、単に「革新」として、話を進めていくことにしましょう。イノベーション戦略は、将来を予測して、自ら革新を加えた商品を開発して、新たなニーズを創り出そうというものです。
代表的なイノベーション製品としては、「任天堂のWii」が挙げられます。少子化によるゲーム人口減少が進む中、マーケティング戦略だけでは行き詰まることを予測し、お年寄りや大人と言った、まったく新しい顧客層のニーズを生み出すことに成功しました。
9.将来に目を向けましょう
今日のような市場の成熟期、衰退期には、現在の市場や過去の市場に囚われないことです。既存の市場をいくら細分化しても、いくらそこで1位を取ったとしても、そこに長期的な繁栄はありません。しかも1位を取ることは、確率的に難しいことを理解しなければなりません。
それよりも、新たな顧客(ニーズ)を創造することです。社会の発展も、本来そこにあります。多くの著書でイノベーションを訴えつづけたドラッカーの真意もそこにあるのではないでしょうか。次回は、身近にたくさんあるイノベーションの成功例について、お話ししたいと思います。
※今回のまとめ
①事業の目的は「顧客の創造」
②①に必要な戦略 | マーケティング戦略 =既存の市場で同業他社と争うための戦略 | イノベーション戦略 =新たな市場を創り出すための戦略 |
③ターゲット市場 | 現在の市場 | 将来の市場 |
④目指すべき方向 | 現在の市場を細分化し、その中でナンバー1を目指す | 将来の市場を自ら創り出し、オンリー1の存在を目指す |
⑤ゲーム機の例示 | ソニーのPS3 | 任天堂のWii |
※参考文献



経 営 の 哲 学 P 60~ 63
P 74~ 76
P116~124
競 争 の 戦 略 P 55~ 71
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日本のブルーオーシャン・戦略 P 20~ 46
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