2016年の相続税対策(不動産編)  2015.09.30

 

1.相続税はどれだけ増えたのか ? 

 

 2015 年 1 月 1 日に、相続税法が改正されました。
 そのうち、減税をもたらす、おもな要素が 「小規模宅地の改正」。
 増税をもたらす、おもな要素が 「基礎控除の縮小」 と 「税率変更」。
 簡単に言えば、自宅の土地が大きな場合は、減税額が増えたものの、全体的には 「大きな増税」 と考えてください。

  

 最も大きな影響を及ぼす、「基礎控除の縮小」 による影響は、次のとおりです。
  ■ 4人家族 (夫婦+子供2人) のうち、夫が亡くなった場合
  改正前は、8,000 万円を超える財産を有すると、相続税が課されました。
  改正後は、4,800 万円を超える財産を有すると、相続税が課されます。

 
 
  ■具体的な税額 (増加の影響がわかりやすいように、あえて妻が相続しないケース)
   @財産の評価額が  1億円の場合       200万円 (改正前の相続税額)  →      630万円(改正後の相続税額)
   A財産の評価額が 10億円の場合  3億3300万円 (改正前の相続税額) → 3億5620万円(改正後の相続税額)
  ※ 財産が多くなるほど、増加額が大きくなりますが、増加率は小さくなります。

 

 

2.世にも危険な節税ブーム 

 

 最近、なぜか、相続税の節税ブームです。
  しかし、本来、ブームになるような、性質のものではありません。
 ブームとは、一般の方まで巻き込んで、流行るものです。
 これに対して、相続税の節税は、複雑で難しく、安易に進めるべきものではない からです。

  

 従って、現在の節税ブームは、一部の者によって、意図的に作られたもの
 つまり、今回の相続税増税を、ビジネスチャンスにしたい人たちによるもの、と考えられます。
 それは、恐らく、税理士ではないでしょう。
 税理士は、責任を負う立場にあるため、急激な仕事の増加は、むしろ、避けたいところです。

  

 一方、被害者になるのは、納税者 です。
 悪質な取引に乗り、将来、窮地におちいって、いただきたくない。
 意味のない節税対策のために、大きなリスクを背負わないで、いただきたい。
 このような思いから、相続税節税の注意点について、お話しをします。

 

 

3.コーポやアパートの建設 

 

 今回の相続税増税を、ビジネスチャンスとして、最も歓迎しているのは、誰でしょうか。
 それは、建設業者と銀行、ではないでしょうか。
   両者は、税金の専門家ではありません。
 自社の利益のために、リスクの高い節税対策を、勧める 可能性もあります。

  

 よく目にするのは、「土地の上に、借金をして、コーポやアパートを建てると、相続税が減る」 というものです。
  なぜ、相続税が減るのでしょうか。
 それは、土地、建物、借金の、評価方法によります。
 土地と建物は低く、借金は残高がそのまま、評価されるため、多くのケースで、差引マイナスになるからです。

  

 平均的な住宅地で、1億円の土地の上に、1億円の借金をして、アパートを建てたとします。
 この家主が、借金の残高 8000 万円の時点で亡くなった場合、相続税の評価額は、たとえば・・・
 @ 土地 8500万円  A 建物 5000万円  B 借金 8000万円   @+A−B = 5500 万円 (課税財産)
  もし 何もしなければ、課税財産は土地 1 億円なので、差引 4500 万円の課税財産が減った ことになります。

 

 

4.税金は減っても、それ以上に増える借金  

 

 課税財産の評価が、4500 万円減った場合、相続税率が 30% なら、1350 万円の相続税が減ります。
 ただし、配偶者が財産の半分を相続する場合は、半分の 675 万円しか、相続税は減りません。
 実際に、相続税が減るので、節税の話として、嘘とは言えませんが、その代わり借金が増えます。
 前述のケースでは、亡くなった時点で比較すると、借金が 8000 万円も増えています。

  

 たった 675万円 の相続税を減らすために、なぜ 8000 万円も、借金を増やすのでしょうか。
 お金の支払先が一部、国から銀行へ変わっただけで、しかも総額は増えています。
 収入も増えていますが、どこまで保証されるものでしょうか。
 もし収入が減れば、借金の返済ができなくなる、恐れもあります。

  

 私の事務所の顧客には、資産家の方が少なくありません。
 中には、賃貸物件のオーナーを、長く続けている方もみえます。
 このような方たちに、ご意見をうかがうと、「絶対にこのような節税方法は採らない」 と言われます。
 なぜでしょうか。

 

 

5.人口減少と供給過剰 

 

 前述のような相続税対策が進むと、コーポやアパートのような、安価な賃貸住宅が、乱立することになります。
 しかし、一方で、日本の人口は減りつづけるため、空室率はどんどん上がります。
 当初の 返済計画は、高い入居率で計算してありますが、最後まで、維持できるのでしょうか。
 先輩オーナーの方たちは、すでに供給過剰の中、同業者の苦労を見たり、自ら苦労を経験されたようです。

  

   私が、特に疑問に思うのは、「家賃保証」 と 「30年一括借上」 のケースです。
 ここには、建設会社が損をすることなく、儲かる仕組みが隠れています。
 「家主さんは、何もしなくていい」。
 この言葉に、踊らされることなく、以下の点にもご注意下さい。

  

 @ 建設費が高額なので、建設会社はすでに暴利を得ている
 A 入居者が支払う家賃から、天引きされるため、建設会社はここでも利益を得ている
 B 保証される家賃は、数年ごとに見直されるため、入居率によって、どんどん下がる恐れもある
 C 修繕も、必ず建設会社を通さなければならないため、割高になる

 

 

6.「家賃保証」 「30年一括借上」 の本当の意味は ? 

 

 @ の建設費と、C の修繕費ですが、事情に詳しい不動産業者に聞くと、相当、割高のようです。
 また、30 年一括借上と言っても、極細の金属造の場合、耐用年数は 19 年です。
 そこまでいかなくても、10 年も経てば、修理の必要性が出てきます。
 建設会社は、当初の建設費でボロ儲けし、10 年以降は、修繕でボロ儲け、それを 30 年満期まで続けます。

  

 次に A の家賃保証ですが、詳しい不動産業者に聞くと、そこにも罠が仕組まれているようです。
 つまり、最初の 10 年は、一般の人でも、満室にするのは、決して難しくない そうです。
 また、B の家賃の見直しについては、定期的に行われます。
 入居率が下がる度に、保証される家賃が下がると、考えてください。

  

 30 年後、日本の人口は、約 2050 万人減ると、予測されています。
 また、供給過剰が進むため、家賃は下がり、多くの人が、コーポではなく、賃貸マンションに住める可能性 もあります。
 さらに、耐用年数 19 年の物件は、劣化も早いため、家賃を下げても、入居率が下がる恐れがあります。
 このようなケースでは、すでに訴訟も起きているそうです。

 


7.意見を聞くなら第三者である専門家  

 

 未知の問題に出会ったとき、よほどの人以外は、1人で判断するのを、避けるべきです。
 だからと言って、専門家でもない、周囲の人に聞くのも、まったくの的はずれ。
 「同業者はこの方法で税金が減った」、このような話を、真に受けて、聞かされることがあります。
 ほとんどのケースが違法であり、飲酒運転で、たまたま捕まらないのと、同じレベルの話です。

  

   さらに、株のことを、証券会社に聞くものではありません。
 相手は喜んで、自分の利益になる商品を、勧めてくる でしょう。
 節税や経営のことを、銀行に聞くものではありせん。
 主導権を握られたり、金融商品を押し売りされるなど、ろくなことがないでしょう。

  

 相談するのであれば、利害の外にいる第三者、しかも専門家以外、ありえません。
 今回のケースで、税理士が妥当なのかと言うと、そうとも限りません。
 建設業者から入る紹介料が目的であったり、もともと力不足のケースも、あるからです。
 自分のことを自分で守るためには、日頃から関心を持ち、人を見る目を養う べきではないでしょうか。

 


8.その他の注意点  

 

 不動産に関する相続税対策のうち、安全性が高いのが、「贈与税の配偶者控除」です。
 婚姻期間が 20 年以上あれば、配偶者に 2000 万円以下の居住用財産を贈与しても、贈与税は課されません。
 実際には、通常の非課税枠が年間 110 万円あるため、2110 万円まで、税金がかかりません。
 詳しくは、税務署または税理士に、おたずね下さい。

  

 不動産の贈与を検討する場合は、名義変更時のコストにも、注意したいものです。
 小出しに何度も、名義を変更していると、相続税は減っても、登記に関するコストが、割高 になってしまいます。
 また、不動産取得税は、相続なら非課税ですが、贈与の場合は課されます。
 不動産による相続税対策は、相続税以外の負担も含めて、慎重に進めたいものです。

  

 ここまでは、「暦年課税方式」という方法について、お話ししました。
 実は、贈与税には 「相続時精算課税方式」 という方法 もあります。
 こちらは、収益物件の贈与や、将来、値上がりが確実な財産の贈与に、おもに利用されます。
 「相続時精算課税方式」についても、詳しくは、税務署または税理士に、おたずね下さい。

 


9.「何もしない」 という選択肢  

 

 あらゆる問題に対して、「何もしない」 という選択肢 があります。
 実は、これが、正解であることも、しばしばです。
 私は、積極的に行動するタイプなので、若いころは、行動が裏目に出ることもありました。
 その後は反省し、熟慮するようになり、大半のことに対して、「何もしない」 を、選択するようになりました。

  

 反対に、消極的な人の中には、根拠もなく、「何かをしなければ」 と、焦る人 もいるようです。
 このようなタイプは、リスクが高いかもしれません。
 これまで節税などに関心がなく、知識も理解も浅いのに、業者のセールストークで、突然、目覚めたとき。
 生半可な知識で、突っ走ってしまうケースも、見受けられます。

  

 最近は 10 年先でさえ、見通しが、困難な時代 です。
 世界的なエコノミストでさえ、予測は外れ放題です。
  それにもかかわらず、素人の建設業者や、銀行員の話を信じて、大金をつぎ込むのは、いかがなものでしょうか。
 くれぐれも、ご注意いただきたいものです。

 


  ※ 参考文献 
  神樹兵輔 21世紀ビジョンの会共著 知らないと損する 価格と儲けのカラクリ