今日のような厳しい状況を乗り越えるためには心構えが大切です。そこで目を通しておきたいのが、デール・カーネギー著「道は開ける」。この本には悩みの克服法が延々と綴られています。その解決法を簡単にまとめると、以下のようになります。
① 事実をありのままに受け入れる。
② 悩みを具体的に書き出す。
③ ②の原因を具体的に書き出す。
④ 悩みに対して、自分ができることを全て書き出す。
⑤ ④の中から選択して、実行する。
このプロセスさえ守れば、多くの問題は解決します。もし解決できなくても、最悪の事態だけは避けられることでしょう。そこで最初に重要になのが、①の「事実をありのままに受け入れる」。ここで間違えると、その後の努力は無駄に終わります。
しかし過去に倒産した企業などを見ると、これが意外に難しいようです。たとえば債務超過額が月商の2倍を超えると「要注意ゾーン」に突入します。そろそろ「倒産」を意識し始めるべきでしょう。早急に経営方針を転換しなければいけません。
「事業拡大」を進めていた企業は、「キャッシュフロー優先」へ。この時点で不採算事業からの撤退など、事業縮小をうまく進めれば、倒産リスクは減少します。ところが多くの社長はこの事実を受け入れようとせず、拡大路線を続けてしまいます。
さらに債務超過額が月商の4倍を超えると「危険ゾーン」に突入します。これらの基準は、東京商工リサーチで1500件もの倒産企業を分析された、ランチェスター戦略の竹田陽一先生によって、弾き出された数字を、私なりにアレンジしたものです。
経営者は倒産寸前まで資金繰りに奔走し続け、思考回路は既に停止状態。何をやってもうまくいかないのはそのためです。悪循環を断ち切り、冷静な判断力を取り戻すためにはどうすればよいのでしょうか。それは倒産の事実を受け入れることです。
「最悪の事態を受け入れる覚悟ができると、かえって思考力を取り戻すことができる」と、カーネギーも述べています。
倒産が確実になったら、何を優先させるべきでしょうか。それは「倒産の回避」ではなく、「倒産後の人生」です。会社は倒産してしまいますが、人生が終わる訳ではありません。だから、次の人生のために準備を始めなければならないのです。
倒産に関する救済策は、法律で定められています。主なものは、A.任意整理 B.民事再生 C.自己破産 の3つ。何れも債務の全部または大半が切り捨てられます。だから厳しいながらも、再起をかけてスタートを切れる可能性があります。
ただし弁護士費用など、大きなお金が必要になるため、本当に行き詰まってからでは手遅れになります。最悪の事態に進む前に、できる限り早めに弁護士や税理士に相談しておくことです。それが将来の選択肢を拡げることになります。
もう1つ重要なことは、小さな取引先を大切にしておくこと。たとえ少額でも、零細企業にとっては大きなお金です。さらに倒産後に力になってくれるのも、零細企業の人たちだからです。債務は必ず小さな取引先を優先して返しておきましょう。
「倒産」という事実は、経営者にとって受け入れがたいものです。しかし、悪あがきすればするほど、周囲にも迷惑をかけるし、倒産後の人生も悲惨なモノになります。だから「事実をありのままに受け入れること」が大切になります。
ところで「事実をありのままに受け入れること」は、なぜ難しいのでしょうか。それは人間に感情があるからです。感情は事実に対して、様々な「意味づけ」を行います。だから悲観的な人と楽天的な人では、同じ事実を異なる事実と見なします。
さらに同じ人が同じ料理を食べても、その時の気分によって美味く感じたり、不味く感じたりするのも、そのせいではないでしょうか。このように感情には事実を曲げてしまう力がありますので、ビジネスにおいては、特に注意しなければいけません。
感情主体の生き方をしていると、シビアな場面で大きな判断ミスを犯したり、悪意のある人に利用されやすいものです。また生産性の高い関係よりも、馴れ合いの関係を築きやすく、組織全体のレベル低下を招くなど、弊害も少なくありません。
ここで、感情と理性の本質について、検討してみましょう。「感情に理由はいらない」と言われるように、決して論理的ではありません。さらに本能や感情などの原始的な欲求は、コントロールしなければ大きなパワーで自分を支配してしまいます。
たとえば「いやなこと」を感情で受けとめると、大きなパワーによって、頭の中は、恐怖、怒り、不安、疑い、嫉妬などに占領され、思考は停止してしまいます。ひどい場合は、自暴自棄や無気力など、生活にも大きな実害を及ぼすこともあります。
このような事態を避けるためには、「いやなこと」が起きたら、できる限り感情をセーブし、理性で対処すべきではないでしょうか。理性は論理的・客観的・多面的な性質を持っているため、ゆっくりですが確実な方向へ自分を導いてくれます。
反対に「良いこと」が起きた場合は、感情で受けとめることです。すると大きなパワーによって、明日への活力が生まれます。さらに、その後は理性によって、反省すべき点を反省すれば、次のレベルへと成長することもできます。
感情主体で生きていると、悪いことが起きると後悔し、良いことが起きても反省しません。理性主体で生きていると、常に反省ばかりで、人生に喜びが感じられません。ケースによって両者を使い分ければ、うまく楽しく生きられるのではないでしょうか。