顧客の考え方を理解しよう! 2014.04.30
1.なぜ顧客の考え方を理解する必要があるのか
経済的に豊かな米国では、1954年にドラッカーが著書 「現代の経営」 の中で、 「事業の目的は顧客の創造」 と述べています。日本でも、私が税理士登録した1994年には、 「企業は顧客の立場でモノを考えなさい」 と言われていました。
モノやサービスが足りない時代は、生産者(企業)側に決定権があるため、顧客の考え方などわからなくても、勝手に売れたものです。しかし モノやサービスがあふれる今は、消費者 (顧客) 側に決定権があるため、企業も顧客の考え方を理解しなければいけません。
「顧客の考え方」 というと特別なことのように思われますが、その本質は 「どれだけ相手の立場になって考えられるか」 にありますから、これはビジネスに限った話ではなく、人間関係全般の課題と言えます。
2.本やセミナーだけでは身に付かない
それでは、どうすればお客様の立場で考えることができるのでしょうか。大型書店に行くと、 「顧客を獲得する方法」 のようなタイトルの本が、書棚に並んでいます。ジャンルとしては、営業、セールス、販売、マーケティングあたりでしょうか。
このような本を読んで、効果が見込めるのは、初心者レベルの方に限られます。社会人1年生の頃に読んだビジネスマナー入門書と同じで、最初のとっかかりにはなりますが、ベテランになるにつれ、それぞれ独自の方法を採っているからです。
本やセミナーは、あくまで 「形」 しか学べません。ファーストフード店の形どおりの接客に感動する人がいないように、形だけを真似ても、決して本当の実力にはつながりませんので、生身の人間として経験しながら、喜怒哀楽を通じて学ぶ しかないでしょう。
3.企業の立場から顧客の考え方を理解することの限界
私が本やセミナーに限界を感じるのは、スタンスそのもの、つまり「お金を受け取る側」の立場から離れていない点にあります。 「いかにお金をうまく受け取るか」 の視点でしか、語られていないということです。
企業側の経営者や従業員が、顧客の立場でモノを考えようとしても、自ずと限界があります。中には、顧客の機嫌を損ねないように、低姿勢を貫く人も見かけますが、かえってビジネスを強調しているようなもので、面倒に感じることもあります。
スポーツでは自然な動きを理想とします。大きなプレッシャーの中で、自然な動きをいかに再現させられるか。この実現を目指して、選手は過酷なトレーニングを重ねます。顧客に対する姿勢も同じ。最も望ましいのは、自然に見える範囲内 ではないでしょうか。
4.私のトレーニング方法
企業と顧客の関係は、 「お金を受け取る側」 と 「お金を支払う側」 に分かれます。自分が 「お金を受け取る側(企業)」でありながら、反対の 「お金を支払う側(顧客)」 の考え方を理解しようとしても、なかなかうまくいくものではありません。
それでは、反対に、自分も顧客と同じ 「お金を支払う側」 にあるときは、どうでしょうか。考えてみると、私たちはお金を受け取るときこそ、それなりに気をつかいますが、お金を支払うときは驚くほど無頓着です。
もし、お金を支払う時、 「お金を受け取る側」 に対して、今以上に気をつかうようになれば、 「お金を支払う側」 としての感性が、豊かになるかもしれません。相手を喜ばせようとすると邪念が入りますので、まずは相手の負担を減らすことを考えてみました。
5.迷惑な客にならないこと
たとえば飲食店の客になったとします。自分は 「お金を支払う側」 ですから、ふつうに考えれば、強い立場にあります。しかし、ここで 最も弱い立場で働いている、末端の店員さんに対して、何ができるのかを、トレーニングの課題 にしました。
私が実践しているのは、店が混んできたら、他の客を待たせないように、隅の席へ進んで移動する。片付けやすいように、食べ終わった食器を手前に集めておく。テーブルを汚したら、おしぼりで簡単に拭いておく。
数百円の支払に対して、1万円札を出さないように、あらかじめ両替しておく。支払額が事前にわかれば、レジを速く通過できるように、席を立つ前に準備しておく。帰り際には 「ごちそうさまでした」 と伝えて、さっさと立ち去るなど。
6.誰のためのトレーニングなのか
ここまで読んで、 「お金を支払うのに、どうしてここまでしなければならないのか」 と思われるかもしれませんが、これは 相手のためではなく、自分のためにやる ことです。顧客の立場で何を感じられるのかを磨くためのトレーニングなのです。
また、ひたすら 「周囲に頭を下げろ」 とか 「店員のご機嫌を取れ」 と言っている訳ではありません。たとえば店員同士がおしゃべりをして、注文を取りにこない場合があります。こんなケースでは、遠慮なく苦情を述べればよいと思います。
客は不愉快なのに、メニューの料金を満額、支払わされる。経営者は顧客を失う恐れがあるのに、店員に時間給を満額、支払わされる。店員は遊んでいたにもかかわらず、時間給を満額、受け取ることができる。これは明らかにおかしい話ではありませんか。
7.顧客としてレベルアップすると見えてくるもの
このようなトレーニングを続けていると、お金を支払うときに感じることが、変化していきます。それが顧客の考え方への理解につながれば、 自社のお客様が、何を感じているのかが、少しずつわかる ようになるのではないでしょうか。
もし自分が 「お金を受け取る側」 の立場だけでモノを考えていると、モンスター客がいても、お金のために放置してしまいます。他人を人間として扱わないモンスター客から、従業員が精神的なダメージを受けていても、見逃してしまいます。
しかし自分が顧客としてレベルアップすると、彼らが他のお客様に対して、大きな迷惑をかけていることがわかります。また従業員が、店とモンスター客の板挟みになっていることにも気づきます。責任者は 「来店拒否」 を、きっぱりと告げなければいけません。
8.人がいる場所は、すべてトレーニングの場
「企業として顧客の考え方を理解すること」 、その本質は 「自分と異なる立場の人を理解すること」 にあります。これは あらゆる人間関係の場で求められる能力ですから、もし高めることができれば、公私ともに人生が充実してくる はずです。
お金を支払うシーン以外にも、トレーニングの場はあります。たとえば道路工事現場、この仕事は、大変、辛いものです。年中、エアコンの効いた部屋で仕事をする身として、通り過ぎるときは、 「ご苦労様」 と一声かけるようにしています。
異なる立場の人と理解し合えば、仕事、交友、家庭など、多くのシーンで、豊かに過ごせるようになります。その第一歩は、まず自分から相手の理解に努めること。それは誰のためでもなく、自分自身のためにすべきことだからです。