人を育てる時代  2015.05.06

  


人手不足の時代 

 

 中小企業の人手不足が、深刻化しつつあります。
 原因としては ・・・
 アベノミク、第 1 の矢である、大胆な金融緩和によって、円安傾向が続いています。
 これに伴い、好調な輸出企業に、人材が向かっています。

 

 また、労働人口の減少や、労働規制の強化により、賃金が高騰しています。
  最低賃金を、「時給 1,500 円にしよう」 という運動が、世界中で起きているそうです。
 しかし、諸外国は、解雇しやすく、再就職しやすい環境が、整っています。
 反対に、日本は、解雇しにくく、再就職も難しいので、うまくいかない のではないでしょうか。

 

 さらに、労働に対する考え方について、世代間のギャップが、大きく開いています。
 何度も、転職したあげく、非正規雇用者として、経済的に苦しい生活を、強いられる 人も、少なくありません。
 悪いのは、政治なのか、行政なのか、企業なのか、本人なのか、本人を育てた親なのか。
 犯人探しをしても、不毛ですから、まずは、これを現実として、受け入れることでしょう。

 


.好調を維持する会社とは ?

 

 このような状況の中で、労働力を確保するためには、どうすればよいのでしょうか。
 すべて、ロボット化できるなら、労働基準法の改正、社会保険の高騰、各種ハラスメント問題など、すべてクリアできます。
 しかし、多くの中小企業にとって、それは、不可能です。
 だから、求められるのは ・・・ 「人を育てること」 ではないでしょうか。

 

 私は、税理士として、22 年目に入りました。
 父の代から、数えても、45 年間、中小企業とお付き合いがあります。
 その中で、長期間、成長を続ける会社、好調を維持する会社、健全性のある会社には、共通点 があることに気づきました。
 それは、人が育っていることです。

 

 これらの企業に残り、今も働き続ける従業員とは、どのような人たちなのでしょうか。
 それは、高学歴でもなければ、特に秀でた人たちではありません。
 普通の人たちです。
 普通の人たちが、こつこつと努力を続け、企業の業績と、自分たちの生活を、支えています。

 


3.「人を育てる」 が、ベストの方法

 

 普通の人が、こつこつと努力する企業が、長期間、繁栄する。
 ここから、2つの理由が、考えられます。
  @ 多くの人の能力には、大きな差がない。
 A 多くの仕事は、特別な才能など必要としない。

 

 「@ 多くの人の能力には、大差ない」 について ・・・
 世の中には、天才的な人が存在します。
 それは、決して、他人が真似できるものではありませんが、人口に占める割合は、わずか1%未満でしょう。
 残り 99% 以上の人は、潜在能力に大きな差がありません。

 

 「A 多くの仕事は、特別な才能など不要」 について・・・
 たとえば、最終合格率 2 %の、税理士試験合格に求められる計算力は、小学生の算数レベルです。
 多くの仕事に求められる能力は、当たり前の能力を、複数、組み合わせたもの ではないでしょうか。
 これら 2 つの理由を理解すれば、人を育てることがベスト、かつ、実現しやすい方法ではないかと、考えられます

 


4.好ましい人間関係とは ?

 

 従業員が育つためには、企業内の人間関係が、好ましいものであるべきです。
 もちろん、対立していてもいけませんが、生産性の低い 「なれ合いの関係」 でも、いけません。
 どうすれば、緊張感を維持しながら、信頼関係を築くことができるのでしょうか。
 それは、共通の目的や目標を持ち、それに向かって、協力しあう体質 を築くことでしょう。

 

 職場に限らず、あらゆる人間関係において、好ましさが、求められます。
 世界的なベストセラー、スティーブン・R・コヴィー著7つの習慣には、6 つの人間関係が、紹介されています。

 

 @ Win−Win     ・・・・・ 自分も勝ち、相手も勝つ
  A Win−Lose   ・・・・・ 自分は勝ち、相手は負ける (よくいる強欲な人)
  B Lose−Win   ・・・・・ 自分が負けて、相手が勝つ (自己犠牲に酔いしれる)
  C Lose−Lose  ・・・・・ 自分も負けて、相手も負ける (いわゆる腐れ縁)
  D Win               ・・・・・ 自分の勝ちだけを考える (他者に無関心な人)
  E No Deal        ・・・・・ 取引をしない

 


5.従業員と 「Win−Winの関係」 を目指す

 

 スティーブン・R・コヴィーは、著書の中で、次の2つを勧めています。
  @ Win−Win     ・・・・・ 自分も勝ち、相手も勝つ
  E No Deal       ・・・・・ 取引をしない
  つまり、「@ Win−Win」 が成立しなければ、「E No Deal」 です。

 

 世の中には、自分の勝ちのために、相手に損をさせる 「AWin−Lose」 の人も、少なくありません。
 しかし、会社内に存在する、分配可能な利益や権限は、限られています。
 「A Win−Lose」 では、これを奪い合うことになり、企業全体の成長は、置き去り にされます。
 「自分が勝ちたい」 だけでは、未成年状態から、進歩のない発想とも言えます。

 

 一方、「@ Win−Win」 のためには、利害関係が対立する者が、お互いに了承し、妥協できる 「第3の案」 が求められます。
 つまり、頭を使わなければいけません。
  さらに、お互いの妥協部分を、小さくするためには、企業全体の利益を、拡大する 必要があります。
 ここに、共通の目的、目標が、存在するのではないでしょうか。

 


6.しかし 「利益」 を目的にしてはいけない理由

 

 事業の目的は、顧客の創造。
  これは、P.F.ドラッカー の言葉の中でも、「超」 がつくほど、有名なものです。
 企業がモノを作ったり、サービスを用意するだけでは、事業と言えません。
 顧客が、それを求めなければ、事業にならない、ということです。

 

 さらに、「利益を事業の目的にしてはならない」 とまで、述べています。
 なぜでしょうか。
 その 1 つとして、経営者と従業員、従業員と従業員の間で、利害関係の対立が、発生することが、挙げられています。
 企業にとって、利益は 「将来のための原資」 になりますが、目的ではないということです。

 

 経営者の中には、「利益追求」 のみを、声高く叫ぶ 人もいます。
 それによって、従業員は、どんどん利己的になっていくのかもしれません。
 利益を目的にすると、法律やルールを、無視してしまう恐れもあります。
 このような間違いは、決して、犯すべきではありません。

 


7.「仕事」 と 「労働」 の違い

 

 ドラッカーは、「仕事」 と 「労働」 を分けて、考えます。
  「仕事」 に対する視点は、「モノ」 であり、目標は 「生産性の高い仕事」。
 「労働」 に対する視点は、「人」 であり、目標は 「生き生きとした労働」です。
  この違いを、理解して、進めるべきでしょう。

 

 P.F.ドラッカー著マネジメント・エッセンシャル版 によれば ・・・
 仕事とは、一般的、かつ、客観的な存在、課題として、存在するものである。
 したがって仕事には、ものに対するアプローチをそのまま適用できる。
 そこには論理があるため、分析と総合と管理の対象となる。

 

 「仕事」 はモノと同じように、合理的に、理詰めによって、攻めればよいのでしょう。
 反対に、「労働」 は、生身の感情を持った人間が、行います。
 だから、そこには 「やり甲斐」 など、理屈だけでは割り切れないものが、必要になります。
 しかし、この 「やり甲斐」 が、最終的に、企業の成長を、支えている のではないでしょうか。

 


8.管理コストを減らす方法

 

 人間は、労働に対して、やり甲斐を見いだすと、自主的、自発的に、働く ようになります。
 社会や社内のルールも、自ら守るようになります。
 だから、管理コストを、縮小することができます。
 反対に、賃金のためだけに、必要最低限以下の労働しかしない人には、管理が必要になります。

 

 たった数名の中小企業で、従業員の管理に、経営者が神経をとがらせるのは、馬鹿げています。
  その時間と労力、お金を、生産性に向けるべきです。
 そのために、話し合いも必要ですが、処遇で差を付けるのも、有効 ではないでしょうか。
 具体的には、賞与、昇給、役職などです。

 

 また、技術の習得のために、手取り足取り教えれば、あるレベルまでは、上達が速いようです。
 しかし、ある時期で成長が止まります。
 さらに、自主性や自発性が育まれないため、いつまで経っても、誰かが教えなければいけません。
 だから、ある程度、従業員をほかっておくことも、必要 ではないでしょうか。

 


9.生き生きとした労働を考える上での 5 つの次元 

 

 生き生きとした労働を実現させるためには、どうすればよいのでしょうか。
 ドラッカーは、次の 5 つの次元、すべてに注意を払う必要がある と述べています。
 高い賃金の支払いが、困難な今、「C 経済的次元」 以外に配慮することが、より求められる時代になったのではないでしょうか。

 

 @ 「生理的次元」 では、1つの作業よりも、複数の作業を組み合わせて、変化を持たせること
 A 「心理的次元」 では、労働を通じて、自分の存在価値や、人間性に気づかせること
 B 「社会的次元」 では、労働を通じて、様々な人や社会と、つながりを持たせること
 C 「経済的次元」 では、自分や家族の生活を守るための、経済的基盤であること
 D 「政治的次元」 では、会社内で健全な権力関係を維持させること

 

 組織は、異なる人間の集まりです。
 だから、大変でもあるし、より大きなものを生む、可能性も高まる訳です。
 そのためには、生身の人間である、自分と従業員を、うまくマネジメント しなければいけません。
 それこそが、経営者の重要な課題と、言えるのではないでしょうか。

 


10.人こそ 「最大の財産」

 

 「人こそ最大の資産である」 という。
 「組織の違いは人の働きだけである」 ともいう。
 事実、人以外の資源はすべて同じように使われている。
 あらゆる資源のうち、人がもっとも活用されず、その潜在能力も開発されていない。

 

 これも、ドラッカーの言葉です。 
 高額なパソコンほど、高性能であることは明らかです。
 しかし、その価格差に見合ったパフォーマンスを引き出せるかどうかは、使用する人によって決まります。
 さらに、いくら 能力が高くても、労働に対して、意欲がなければ、その能力を活かすこともできません。

 

 長期的な企業の繁栄のためのポイントは、どこにあるのでしょうか。
 設備や教育コストでもなければ、学歴や能力でもありません。
 人そのものが、仕事にやりがいを感じられるかどうか、にあります。
 それは、経営者が、労働者 1 人 1 人 を、人間として考えられるかどうか、によるのではないでしょうか。

 


※参考文献

  スティーブン・R・コヴィー著7つの習慣」 「第3の案
  P.F.ドラッカー著 「経営の哲学」 「仕事の哲学」 「マネジメント (エッセンシャル版)